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Qualia F.A.Q. (Frequently Asked Questions) クオリアについてよくある質問

 

1、 クオリアというのは、一体何ですか?

 

 私たちが、意識にある状態で感じる様々な質感のことです。日本語では、感覚質と訳されることもあります。

 私たちの意識において、明確に区別できる心の状態がある時、それはクオリアの差です。しばしば、「赤い色の質感」などの例が挙げられますが、そのような感覚的なものだけでなく、たとえば、何となく寂しい感じ、ぐっと来る感じ、不安な感じなどに伴う質感も、それが意識の下で区別できる限り、クオリアであるということになります。

 

2、 クオリアというのは、誰が言い出したのですか?

 

 もともとは、クオリア(Qualia)は、質を意味するラテン語で、アウグスティヌスの「神の国」にも出てきます。現代的な意味で最も早くQualia を問題にした人の一人は、1982年に、通常の意味での科学的知識ではクオリアに到達できないと主張する論文を発表したオーストラリアの哲学者、Frank Jacksonではないかと思われます。しかし、私たちの主観的体験には容易に定量化できないものがあるということは、多くの知識人によって古くから問題にされていて、例えば1920年に発表されたWhiteheadのConcept of Natureという本の中にも、Qualiaという言葉を使わないものの、電磁波のような物理的な自然の記述と、夕日の赤を見る私たちの主観的体験の質の間のギャップについての明確な記述があります。

 

3,茂木さん自身は、どのようにクオリア問題に気がついたのですか?

 

 私は、ずっと、宇宙の森羅万象の振る舞いは、究極のところ物理学において見いだされてきたような定量的な法則によって記述できると思っていました。実は、物質の<客観的な>振る舞いについては、今でもそう信じています。

 1994年の2月、電車に乗っていて、突然、「ガタンゴトン」という音が、それを周波数で分析したのでは決して到達できないような生々しい質感として感じられているという事実に気がつきました。この体験によって、いわゆる定量的な方法では説明できない「世界観に開いた穴」があることに気づいたのです。その当時は、クオリアという言葉を知らず、自分が目覚めた問題が、「クオリア」という言葉で以前から議論されていたのだということは、その後知りました。

 それから、3年間懸命に考えたことを、1997年、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)という本にまとめて出版しました。

 

4、クオリアは、受け身のものなのでしょうか?

 

 そうではありません。赤い色の質感、水の冷たさ、ヴァイオリンの音色、風がほほをなでる感じといった、一見受け身に見える「感覚的クオリア」(sensory qualia)でさえ、その神経機構はそれを「私が感じる」という能動的な主観性の構造と切り離しては議論できないことが判っています。

 私たちが自分の身体をどのようにとらえているかという「ボディ・イメージ」のような志向的クオリア(intentional qualia)になると、ますます、受動的な感覚系と能動的な運動系の相互作用において考えなければなりません。

 

5、クオリアは、曖昧なもので、科学の対象にならないのではないでしょうか?

 

 そんなことはありません。まず、クオリアが曖昧であるというとらえ方が間違っています。私たちの心の中で、それぞれのクオリアは、「それ以外ではあり得ない」というユニーク個物性を持っています。このuniquenessを通してクオリアをとらえれば、そこには、必ずしも定量化はできないが、間違いなく非常に精密な未知の法則があることが感じられます。クオリアにおける厳密さ(exactness)は、数学におけるexactnessよりもより普遍的なのです。

 私たちの主観的体験は、自然科学の記述の対象にならないという考え方は、この世界の実在のあり方を理解したいという科学のそもそもの動機付けから言えば、きわめて不満足なものです。脳の中で一千億の神経細胞が活動すると、それに伴って、クオリアに満ちた私たちの主観的体験が必然的に生じてしまう。これは、一つの拡張された自然現象であって、それを説明できないのならば、それは単に現時点での科学の能力の欠如を表しているだけで、クオリアが本来科学の対象にならないことを意味するのではありません。

 

6、クオリアがどのように生み出されるかは、どこまで判っているのですか?

 

 ほとんど判っていないというのが現状です。クオリアに満ちた私たちの主観的体験(意識)がどのように生み出されるのかを解明することは、私たち人類に残された最大の謎と言っても良いでしょう。

 残念なことに、現在の脳科学の主流の研究方法、すなわち、神経活動とある特定の刺激、状況の間の関係性(反応選択性)を見たり、fMRIなどで、ある特定の課題をしている時の脳活動を見るといった手法は、そもそもクオリアがどのように生み出されているのかという原理問題を考える上ではほとんど無力です。なぜならば、これらの研究手法は、脳状態とある機能の間の写像関係を明らかにできても、そもそもクオリアを生み出していると考えらる脳の神経細胞の間の関係性自体には迫ることができないからです。

 現時点でおそらく確実に正しいだろうと言えることは、クオリアが脳の神経細胞の活動の関係性から生まれること(マッハの原理)、及び、クオリアが知覚される心理的時間は、一つの神経細胞からもう一つの神経細胞に情報が伝達される間には経過しない(相互作用同時性の原理)くらいでしょう。

 

F.A.Q.は今後も補足されていく予定です。