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漱石の絵。

 夏目漱石が、葉書の裏に描いた絵(絵手紙)。

(private collection)

 縁側で遊ぶ子供の一瞬の表情をとらえた構図。

 おそらく自分の子供なのだろう。明るい庭を背景に、手を伸ばしてひざを曲げたその姿が、私には、漱石の存在論的不安を反映しているように思える。

 存在論的不安。そう、この、家庭的幸福を描いた絵は、どこか人を不安にさせる。目にうつるものはあくまでも明るく、穏やかだがその背後に、不安定で、不可視なものへの予感がある。

 何かが、昼下がりの縁側に忍び込んできている。

夏目漱石の絵(葉書の裏に描いたもの)

漱石の絵、全体像。漱石の絵の先生だった津田清楓の画賛がある。

夏目鏡子 「漱石の思い出」より

十一月ごろいちばん頭の悪かった最中、自分で絵の具を買ってまいりまして、しきりに水彩画を描きました。私たちがみても、そのころの絵はすこぶるへたで、何を描いたんだかさっぱりわからないものなどが多かったのですが、それでも数はなかなかどっさりできましたようです。もちろん大きいものもないようでして、多くは小品ですが、わけても多いのははがきに描いた絵です。橋口頁さんと始終自筆の絵はがきの交換をしたものらしく、いつぞや橋口さんのところからそのアルバムを拝借してたくさんあるのに驚きました。…